【システム運用検証③】自動売買システムの「日次運用設計」とログ監視の実践

前回までは、システムを止めないための「メインループ設計」と、中身を可視化するための「ログ出力設計」を構築してきました。
今回からは、いよいよコードの実装を離れ、完成したシステムを本番環境で稼働させたあとの「日次運用設計(どうやってシステムを管理していくか)」という、より実務的で高度な運用思想について考察していきます。

「完全放置」という幻想と、運用者の日常

「自動売買」と聞くと、一度プログラムを起動すればあとは南の島で寝ていてもお金が増える…というイメージを持たれがちですが、実運用は全く異なります。

例えば、当システムのような現物グリッドトレードを市場開場中、安定して稼働させるためには、物理的なインフラ環境の整備が欠かせません。クラウド(VPS)を利用する手もありますが、通信の安定性やコストを考慮し、「Windows Proを搭載した小型のミニPCを自宅に設置し、リモートデスクトップ接続で管理する」といった専用のヘッドレス環境(モニターなし運用)を構築する運用者も多くいます。
(※モニターレス運用時にPCがスリープ・フリーズするのを防ぐため、HDMIダミープラグを挿すといったハードウェア的な工夫も、実運用ならではの泥臭いノウハウです)

このように専用環境を用意した上で、運用者の毎日のタスクは「システムのお守り」をすることです。しかし、それは画面に張り付くことではありません。「1日1回、わずか数分だけシステムの脈拍(ログ)をチェックする」のが、正しい日次運用の姿です。

ログを「読む」のではなく「監視する」考え方

前回の記事で、ログを「取引(Result)」「エラー(Health)」「状態(State)」の3層に分けて出力する設計を推奨しました。日々の監視では、このテキストファイルを1行ずつ真面目に読む必要はありません。

運用者がチェックすべき「異常検知の最低ライン」は以下の2点に集約されます。

  • Healthログに致命的なエラーが連続していないか:
    単発の「APIタイムアウト」は自動リトライされるため無視して構いませんが、「証券口座のパスワードエラー」「残高不足」といったシステム側で解決できないエラーがループしていないかを確認します。
  • 証券会社の「実際の口座状況」と「Stateログ」にズレがないか:
    ここが最も重要です。ログ上は「保有ポジション:5口」となっているのに、実際の証券口座には「4口」しかない場合、どこかで発注漏れや約定の取りこぼしが発生しています。

この「現実(証券口座)」と「システム(ログ)」の間に不整合が起きていないかをサッと確認し、問題がなければそっと画面を閉じる。一般的な運用では、この程度の確認が現実的です。

自動化と人間判断の「境界線」

システムを運用し続ける上で、「どこまでを自動システムに任せ、どこからを人間が判断するのか」という境界線を明確に引いておくことは、致命的な損失を防ぐための絶対的な防波堤になります。

当システム(1329 ETFの現物グリッドトレード)における境界線の設計思想は以下の通りです。

  • 【システムに任せる領域】:
    あらかじめ設定した「一定の価格レンジ内」における、ルール通りの買い下がりと、利益確定(売り)の反復作業。および、一時的な通信エラーからの自動復旧(リトライ)。
  • 【人間が判断・介入する領域】:
    レンジを大きく逸脱するような歴史的な暴落時の稼働停止判断、証券会社のメンテナンス対応、そして「OSの再起動やPCクラッシュ等で、システムが完全にダウンした際の復旧作業」

どんなに堅牢にコードを書いても、「Windowsの強制アップデートでPCが勝手に再起動した」「停電でルーターの電源が落ちた」といった物理的・外部的なシャットダウンをプログラム自身で防ぐことは不可能です。

次なる課題:再起動しても「壊れない」仕組み

ここで、運用上最大のハードルが立ち塞がります。

もし、運用しているPCが不意に再起動してしまった場合、システムをもう一度立ち上げ直したとき、プログラムは「自分がどこまで処理を終えていたか(どの保有ポジションまで利確注文を出したか)」を正確に思い出すことができるでしょうか?

単にプログラムを再起動しただけでは、変数が初期化されて過去の記憶が吹き飛び、「すでに売り注文を出している保有ポジションに対して、もう一度売り注文を出そうとしてエラーを連発する」といった大惨事(不整合)を引き起こします。

次回は、「PCがクラッシュ・再起動しても壊れないシステム(リスタート設計)」という観点から、これまでの内容を整理しながら「状態管理という考え方がなぜ自動売買において重要になるのか」をシステム設計の観点から総括します。